「建設業法」とは…片務契約(指値発注)の解消を目的として制定
建設工事の「請負契約」とは
民法第632条では「請負」について、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」としています。
建設工事の「請負契約」では、発注者と請負者の双方が、承諾した内容で完成物を引き渡すことを約束し、その構築物や製品を発注者に引き渡すこと、その工事物の工事中に支払われる代金、または完成後の支払い(有償)を約することを原則としています。一方的な契約内容の押し付け、不正確な契約は認められません。
建設工事のトラブルの多くは、契約内容が「あいまい(口頭契約等)」で、正確な書面になっていないことが原因です。建設業では、建設工事請負契約の適正な元下取引を規定した、「建設業法」が制定されています。
建設業法とは
昭和24年に施行された法律。建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする法律です(建設業法第1条・目的)。
発注者と元請、元請と下請の間に見られる不平等な契約関係を是正し、特に下請を保護しようとするものです。建設業法の目的は、発注者の保護であると同時に下請負人の保護にあります。
建設業法による契約の適正な手順
建設工事における請負契約の原則【建設業法第18条】
対等な立場で公正な契約が原則です
建設工事の当事者は、「対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し」、「信義にしたがって誠実にこれを履行(受注者の工事完成、発注者の工事物の受領・代金の期日での支払い)しなければならない」としています。
工事の見積りについて【建設業法第20条】
法定福利費・必要経費、適正工期を必ず明示しましょう
建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとに材料費、労務費その他の経費の内訳を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならないとしています。また、建設業者は、建設工事の注文者から請求があったときは、請負契約が成立するまでの間に、建設工事の見積書を交付しなければならないとしています。
適切な社会保険加入に必要な「法定福利費」について、全建総連、各専門工事業団体等では、法定福利費算出のための「標準見積書」を作成し、標準見積書を活用した法定福利費の算出・別枠明示、適正な請求、確実な支払いを求めています。
※社会保険料は「通常必要と認められる工事に必要な原価」であり、法定福利費相当額を一方的に減額したり、法定福利費相当額を含めない金額で建設工事の請負契約を締結することは、建設業法第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)に違反することになります。
建設工事の請負契約【建設業法第19条】
工事着工前に書面での契約、適正な工事代金・工期が確保された契約が必要です
① 建設工事の請負契約の当事者は、前条(18条)の趣旨に従って、契約の締結に際して金額・内容・工期等を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付しなければなりません。
② 請負契約の内容を変更(追加・変更工事)する時は、工事着工前にその変更内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければなりません。
③「注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない」(19条の5)と規定され、工期についても著しく短い工期での請負契約を禁止し、適正工期の確保を求めています。
注文者・受注者の守るべきルール
注文者(発注者、建設工事を建設業者に発注者する者)の義務
注文者がその取引上の地位を不当に利用し、その工事に通常必要と認められる「原価に満たない額で請け負わせてはならない」としています(19条の3)。
①このような行為は、注文者が民間事業者「民間工事で事業者であり発注者であること)であれば、「優越的地位の濫用として、公正取引委員会(独占禁止法)」に対して、具体的な処分を行なわれます。
②国や地方団体の公的機関では独占禁止法の適用が無いことから、公的機関の違反行為に対して国土交通大臣(地方整備局)又は知事が「勧告することができる」となっています。
指値発注とは
「元請負人が下請負人との請負契約を交わす際、下請負人と十分な協議をせず又は下請負人の協議に応じることなく、元請負人が一方的に決めた請負代金の額を下請負人に提示(指値)し、その額で下請負人に契約を締結させる」行為。
国交省の「建設業法令遵守ガイドライン」でも、指値発注は元請としての地位の不当利用に当たるものと考えられ、「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある、としています。また、元請が、通常の工期を前提とした下請代金の額で指値をした上で厳しい工期で下請工事を完成させることにより、下請代金の額がその工事を施工するために「通常必要と認められる原価」を下回る場合にも、建設業法第19条の3に違反するおそれがあるとしています。
建設業法の元請責任について
建設業法は下請保護と建設工事の適正な施工確保の観点から、様々な元請責任を規定しています。業法が明記している元請責任は、「一般建設業者と特定建設業者共通の項目」と、「特定建設業者にのみ規制している項目」があります。
一般・特定業者共通の元請責任の一例
①書面による下請契約の締結(19条)
②一括下請負の禁止(22条)
③不当に低い請負代金の禁止(19条の3)
④不当な使用材料等の購入強制禁止(19条の4)
⑤下請からの意見の聴収(24条の2)
⑥元請の下請に対する代金支払いの期日(24条の3)
一般建設業者の元請がこうした規定を守っていない場合、業法41条1項に基づき許可行政庁に、「工事の適正な施工を確保し、また、建設業の健全な発展を図るために必要な指導、助言及び勧告」を求めることができます。
特定建設業者のみに課せられた規制の一例
①下請代金の支払期日の規制と遅延利息(24条の6)
②下請代金の支払方法の制限(割引困難な手形の禁止)(24条の6)
③下請業者の賃金不払い、工事代金不払いの立替払い(勧告)(41条2項、3項)
④施工体制台帳、施工体系図の作成
⑤下請業者の指導、違反是正、許可行政庁への通報(24条の7)
特定許可の建設業者は、元請として高額な下請工事(下請代金4000万円以上、建築一式工事は6000万円以上)を下請業者に発注できることが建設業法で認められています。したがって、下請保護、建設工事の適正な施工確保の観点から、一般許可の建設業者より重い元請責任が要求されています。特に「下請指導責任」は、特定建設業者のみに課せられています。
国土交通省は「建設業法令遵守ガイドライン」を策定
国交省は上記ガイドラインの策定、改訂を行い、建設工事請負契約における元下取引の適正化を図っています。ガイドラインでは違反となる事例等についても記載されています。
国交省「建設業法令遵守ガイドライン」